小学館発行の「日本の歴史」全16巻が完結した。
残すは別巻(日本文化の原型)が5月下旬に出るばかりになった。
又、NHKで松平定知氏がキャスターとして放送していた「その時歴史は動いた」も本年3月で9年間の長寿番組に幕が降りた。歴史は皆、学校で学んできたはずだけどそれは、まことに中央道の大まかな流れだけであったような気がするのは私ばかりではなかろうと思う。
小学館の日本の歴史は各巻夫々著者が異なっているのでその為に途中の面白そうな巻だけ読んでもノンフィクションを読んでいるような楽しみがある。
テレビの方は映像が加わるので歴史の教科書に出てこないような些細な事件も沢山、リアルに教えられた。松平さんの語り口が私は何故か好きでこの番組は楽しみにしていたのに無くなってしまってとても残念。その中で今、思い出してみると特に印象深かったのは白洲次郎という男の物語であった。
白洲正子については以前から目利きという事で色々本も読んだがその夫、白洲次郎という類まれなるジェントルマンであったという事はNHKの番組が源になって沢山出てまた本を読んで目を開かされた。
「白洲次郎占領を背負った男」
北康利/著
出版社名 講談社
税込価格 1,890円
「風の男白洲次郎」
新潮文庫
青柳恵介/著
出版社名 新潮社
税込価格 420円
「白洲次郎」
コロナ・ブックス 67
白洲正子/ほか〔著〕
税込価格 1,600円
「白洲次郎の流儀」
とんぼの本
白洲次郎/ほか著
出版社名 新潮社
税込価格 1,470円
「回想十年 1」
中公文庫
吉田茂/著
出版社名 中央公論社
税込価格 780円
等を面白くて次々に読んでゆき私は未だほんの子供であった敗戦後の困難な時代の事を60年経って初めて再認識させられた。そして少しブームが終ってからも私は店の棚にこれらの本を並べ続けた。
客層はやはり私前後の老人と呼ばれる人が多かったけど30代、20代の男性客も混ざっていた。
そしてこの度白洲次郎が物語としてテレビ化された事によって再びこの関係の本に読者の目がふり向けられた。私は白洲次郎ほどの男として完璧に近い人物を誰が演ずるのかという点に興味があった。
私は若い俳優をあまり知らないので予想つけ難かった。そして2回目の後半分のみ観る事が出来た。伊勢谷友介はなかなかのハンサムで外見は合格。そして英語も達者そうに思えた。でも最後まで見て違う、どこか違う。私の頭の中の本から得た資料を源にして描いている白洲次郎とはやはり違う。昔からそうだった。原作のある作品が映画化されると90%は私の頭の中のヒロイン・ヒーローと映画の中の俳優は異質に感じた。いつも、いつも。
今思い出すのは川端康成の雪国のヒロイン駒子と女優岸恵子はピッタリだった。
さて、白洲次郎のテレビはさておき敗戦の処理が大変困難であった事がよく分かった。マッカーサーを叱った男。
天皇陛下からのクリスマスプレゼントをGHQへ届けた時「その辺に置いておけ」と云われ「卑しくも日本の統治者であった者からの贈り物をその辺に置いておけとは何事ですか」と叱りとばし心の中では「戦争には負けたけど奴隷になったわけではない」と思った。そしてよくその言葉は口癖だったと云う一章を読んだ時私は胸がすくような思いになった。
又、吉田茂の「戦争に負けても戦後処理に勝った歴史はある」という文章も嬉しかった。
次郎は敗戦の年(1945年)43才であった。
まさしく人間働き盛りの40代に入った所であったのだ。これから白洲次郎は日本の復興のために思う存分力を発揮した。
新憲法作成の時の様子も次郎は誰よりも先を読んでいた。そして圧巻は1951年9月8日サンフランシスコ平和条約締結の日の事である。原稿を見せられ次郎は激怒した。
「独立しようとしている我が国がなぜ英文で書くのか。日本文に直せ」と命じて一夜がかりで和紙の巻紙に筆で書き直させたという話。私はこういうくだりの白洲次郎がえも云われぬ快感をもたらせてくれるのだ。
このように心、身、共に健全な日本人がのちの高度成長時代の根源を作ってくれたのだと思っている。私は小学校で敗戦、中学・高校は占領下の中で育ったという事をこれらの本を読みすすむうちにハッキリ認識できた。今、世界は大不況。日本も大変な時代になっているがこんな時にもきっと必ず白洲次郎のような人が出てくる事を私はずっと信じ続けている。
歴史は周期的に大波、小波で繰り返される。経済問題でも経済だけを見ていてはいけないと思う。時代を動かせるのは人。心ある人物の出てくる事を祈る気持ちでいっぱいだ。歴史の本は人を育てる。そして人が歴史を紡いでいく。
→小学館「日本の歴史HP
→NHKドラマ白洲次郎
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