「美食の道」
立原正秋/著
出版社名 角川春樹事務所
税込価格 714円
立原正秋/著
出版社名 角川春樹事務所
税込価格 714円
昭和40年週刊新潮に連載されていた鎌倉夫人を見つけて読み始めたのが運命的だった。好きな作家はと聞かれたら立原正秋と云う。私が気がついたのが著者 39才の時。そして食道ガンで亡くなられたのが54才。若すぎる死であったと思う。たった15年間だった。まさしく働き盛りの15年間であったとは云え作家の寿命はこんなに短いものかと思ったのを覚えている。
立原正秋のどこが好きかと問われたら気品のある華麗な文章、そして陶然とさせられる美意識であろうか。更に云えばその立ち姿の美しいこと、これも魅力である。
私の一番最初のブログは立原正秋で始まった。
今週はグルメ作品ばかりである。
立原正秋全集(角川書店)の中では24巻エッセイⅢの雑篇に入っている。
先ず鰺のたたきからはじめよう。
東京にでた時、ある出版社の編集者に連れられて鰺のたたきの美味しいという店に行った。「客の前でたたくのです」とその編集者は云った。なるほど、目の前でたたいてくれたが私は鰺を見た途端いやになった。鰺が大きいのである。色つやも良くなかった。たたいたのを皿に盛り小皿に薬味を入れてくれたがやはり駄目だった。鮮度が落ちているので生臭い。生臭さを消すために薬味をそえられているような鰺だった。難しく考えてはいけない。どだい鰺のたたきを都会で食べよ うという事が無理である。東京で売っている魚は前日あがった魚である。そこを考えなくてはいけない。
つまり鮮度がよくなくてはたたきはつくれないと書いてある。
鰯の刺身もこれ又絶妙である。頭をおとし腸を出しさっと水洗して骨を抜く。鰯は身がやわらかいので骨はすぐ抜ける。これを生姜醤油で食べるか浅葱をそえてもよい。
こうした食べ方はひとつの風物詩で料理学校でやれ鰯の南蛮漬だ、カレー粉をまぶして揚げたらよいのとか色々工夫したのを雑誌のカラー写真で見かけるがあんなのを食べ続けていたら日本人の味覚は落ちてゆく一方だろう。
私はこういう文章に魅かれる。本当にその通り。
要は生に近い食べ方(さしみ等)が一番美味しいという事を魚場育ちの私は身について知っている。ごたごた手を加えると本来の美味しさが消えてゆく。それにしても鮮度が大切。鮮度が良ければ全てよしと云ってもよい。
私が横浜へ来たての頃、魚屋の店頭の魚の鮮度が悪くて買う事ができなかった。
今はならされて来たけど。
素麺のこと、そばのこと、梅酢のこと、酒の燗のこと。
酒 の燗は沸かした湯をいったん他の容れ物に移してそこで燗をするのが酒を一番美味しく飲む方法である。小さなやかんに酒を入れてじかに火にあてるとどうも味 が苛酷になっていけない。わいているやかんに徳利を入れるのも良いがこの方法だと急激に温まっていけない。酒はゆっくり温めるのが一番美味しい。
私も夫の生きていた時よく叱られてやっと出来るようになった頃、夫は亡くなってしまった。
30才以下の人はどう思われるか分からないが
家庭で作らなければ美味いものは出来ない
と云っている立原正秋がコンビニ弁当を知ったら何と云うだろう。私は料理は自分(又は自分の家庭)の美味しいものを食べたいための創作料理だとこの頃思うようになった。創作品は総して男性の方が一枚ウワテである。
男の料理人が多いのも頷ける。
作家とか美術家に料理のうまい人が多いのもよく分かる。
味覚はとても大切だ。味覚はその人の性格を形成し大げさな表現をすれば品性にも関係する。人格も育てる。食育という言葉がはやっているがとてもよい事だと思っている。
基本を失わず食材の旨味を100%食べたい。それには魚でも野菜でも鮮度につきる。
都会生活では便利になったように見えるが新鮮な食材を入手するには大変な時代になった。
立原正秋の住んだ鎌倉は海あり、山あり、そして品位ありの場所である。地場のものが手にはいりやすい所である。
料理本はあり余る程出版されている。どれを見ても美味しそう。そしてすぐに出来そうな気がするけれど私のように時間貧乏の人間には本を見て満腹するばかりである。
作家の書いた料理本を紹介しておきたい。
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「ダンディな食卓」
吉行淳之介/著
出版社名 角川春樹事務所
税込価格 714円
「魯山人の食卓」
北大路魯山人/著
出版社名 角川春樹事務所
税込価格 546円
「旨いものはうまい」
吉田健一/著
出版社名 角川春樹事務所
税込価格 714円
「食の王様」
開高健/著
出版社名 角川春樹事務所
税込価格 693円
「酒食生活」
山口瞳/著
出版社名 角川春樹事務所
税込価格 693円
「巷の美食家」
開高健/著
出版社名 角川春樹事務所
税込価格 714円
開高健/著
出版社名 角川春樹事務所
税込価格 714円
「わが食いしん坊」
獅子文六/著
出版社名 角川春樹事務所
税込価格 714円
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これらの文庫本はハンドバックにしのばせておき電車の中等で適当に開いて読めばとても楽しい。総じて作家のグルメ本はその文章に惹かれる。そして本質をぴっちりつかんでいる。
食物がドンドン変化している時代に味覚も変化してゆく事だろう。
一番大切な事は子供の時の食習慣だと思う。
出来あいの食べ物ばかり食べさせられて成人していく人間は気の毒だと思う。
一生を通して食に対する感覚が劣えてしまうだろう。
食は人生なり、おろそかにすべきではありません。
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