私がはじめて三浦半島に足をふみ入れたのは50年前だった。
見事な広い空があった。
白い しぶき をあげながら小船の動く青い海があった。
はだしになって走りたい砂浜があった。
瀬戸内生まれの私と異なり夫は、この光景が大変に気に入っていた。
あちこちに海水浴場用の小屋があり、カキ氷機がシャーシャーと音を立て、白い氷の上に赤や黄色の色がほどこされ裸の子供が目を輝かせて食べていた。
そんな素朴な素晴らしい海岸であった。
それから36年(私達夫婦の時間です)経って亡夫の墓を建てる時息子が云った。
「親父は三浦半島が好きだったんだ。三浦半島に建てよう」
そして三浦海岸公円墓地に決め妻と息子と嫁と孫2人の五人で平成5年に建立した。
以後毎年四回 お盆・正月 春と秋の彼岸前後に私は必ずお墓参りをする。
京浜急行で三浦海岸まで行き、そこからタクシーでお墓まで。タクシーを待たせておき、掃除をして花を捧げ線香をたく。
そして手を合わせ私は無心で亡夫のありし姿をひとつひとつあれこれ思い出しながら「イセザキ書房を守ってくださいね。好きな海が見えて貴方の好きな静かな所で良かったかしら」
たたかれた痛さも忘れ怒鳴られた怒声も、もう全く聞こえず静かな静かな墓の前で、ひたすら亡夫にあれこれと報告する。「書店業界は、とても難しい時期、あなたはどうすればいいと思う?」と声に出して話しかける。
聞いてもらえると信じて。
優しい夫ではなかったけれど私を鍛えようとして教育してくれた美しい思い出ばかりが思い出される。
息子も、もう50才過ぎ孫2人も成人した。
ここに亡夫が生きていたらどんなに喜んでくれただろうか。
でも、あれもこれもすべて運命。私に与えられた神からの定め。
行きも帰りも電車の中で読もうと思って持参した本を開かずじまいになった。
この京急沿線の開発の目覚ましい事、その風景を眺めるだけで、私は充分満足だった。
ここ10年前後に新築された新しい民家の美しい事。50年前にはじめて訪れた時の面影はない。こういう所に住むのもいいだろうなーと思ったりして。
ふと気がつくと丘というか山がけずられている平地にするためどんどん土地がくずされていく景色が見えた。すでに、段々になって丘の上の方にまで奇麗な住み家が並んでいるのに更にその上を崩そうとしている。
山でおくよりは住宅地にした方が価値は上がるだろう。
こうしてどんどん家を建てて需要があるのだろうか。
もし何か天災があったら、この斜面の住家もろとも崩れてしまうかも分からないのに。
そんな事を考えているうちに、横浜のみなとみらいにどんどん建つビルを思い出した。
みなとみらいは私にとっては(50年間船員さん達に本を買ってもらった者としては)街ではない。何年経っても三菱裏工横浜後船所の姿が頭から消えない。このドックから何百隻という商船が七つの海を目指して出港していった、あの壮観さを私は忘れる事が出来ない。そこに立ち会えた 喜びも私の誇り
に思っている。
年寄りの独り言と捨てないでほしい。歴史なんです、すべてが。
みなとみらいは元は海、街ではない。
そんな場所へあんなビルを建てていいのだろうか地盤は大丈夫なんだろうか。
ついでに云うならば東京の街。もうビルの建てすぎです。
建設業は景気浮揚の基本だからとても良い事だけどなにかあった時、あの東京の街は恐ろしい。もうこの辺でビル建設も考えてほしい。
そんな事考えているうちに黄金町駅に着いてしまった。
もう私の心は旅情をしのんでいる時間は終わり。
店へ帰ると私の大切な大切な本が私を待っていてくれた。紙芝居も踊っていた。
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今週のおすすめ
「日本建築様式史 カラー版」
増補新装
太田博太郎/監修 藤井恵介/監修
太田博太郎/〔ほか〕執筆
出版社名 美術出版社
税込価格 2,625円
「頭が10倍よくなる超睡眠脳の作り方」
苫米地英人/著
出版社名 宝島社
税込価格 1,300円
「立ち読みでわかるイビキの本
鼻呼吸が健康体をつくる」
パタカラシリーズ 1
秋広良昭/著 細川壮平/著
出版社名 三和書籍
税込価格 1,155円
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