2012年6月16日土曜日

時は流れる 休みなく

私は、下駄と草履と精一杯、運動靴 で育った世代。
大人になって靴をはくのが難しかった。

いいと思っても、暫く履いているうちに、
小指や親指の先が、痛くなる。
アメリカへいった時、履いて行った靴が
足になじまなくて困ってしまい、
靴屋へ飛び込んで一足買った。

どちらかと云えば、ウォーキングシューズで
カッコウはよくなかったけれど、
足の指が伸ばせて、ほっとして一週間を過ごした。

アメリカで買った靴と自分では思っていたが、
実際は ”メイド イン コーリア”。
それでもウォーキングの時は、今でもそれを
履いている。10年間も。

元町へ行った時、「ドイツ靴店」というのを
裏通りで見つけて、入ってみたら、
私の足の形をとり、採寸も縦・横・高さ、と
非常に詳しく計ってくれて、
「右足が5mm短いので、靴底で調整しましょう。」と云われ、
3万円くらいだったか、足にピタッとくるようにしてくれて
履いているか、履いていないか分からない程、
私の足にフィットしている靴を出してくれた。

革靴だけど、実に軽い。疲れない。
私は1日10時間間位は履いているので、普通の靴だと
途中で一度脱いで、足を伸ばしたいという
気分になるのだが、そういう事の全くない靴に
出会って本当に嬉しかった。

季節が秋になる頃、再び、その靴屋へ行き、
次は黒を買った。
「お客さんが、今履いている方、
大分傷んでいるようですから修理しましょうか?」
と云われ、私は驚いた。
「直していただけるんですか?ぜひ、お願いいたします。」
と同時に「この靴、私の足に合っているので、
もう一足欲しいです。」と云ったら、
「一寸待って下さい。ドイツのメーカーが、この型は
もう作っていないのですが、うちの在庫を見てきましょう。」
と云って、奥へ引っ込み30分位経ってから、
「申し訳ないです。うちにも、もうないですね。
いや、似たタイプの靴を探しておきましょう。
それに、修理はいつまでも致しますから
心配しないで下さい。」と云った。
残念と思いつつ、その日は、新しい黒い靴を履いて帰った。

一週間くらい経った頃、「修理ができました。」という
電話があった。そして、私が取りに行ったのは
春の終わりの頃だった。
元町と云っても、そんなに遠くないけれど
その時間がとれず、月日が流れてしまった。

春の終わり頃、電話したら「はい、出来ております。どうぞ。」
という何のひっかかりもない、すんなりとした返事でほっとした。
そして、黒を又、修理に預け、白い靴を履いて帰った。
でも、修理だけの3か月前の支払いだけでは
申し訳ない気がして、新しいのを一足買おうと思って、
眺めていると、
「お客様、一寸計ってみましょう。」と云いながら、
物指しみたいな物、分度器みたいな物、定規  みたいな物で
あちこち計り、
「お客様、右の膝を悪くしていますね。
今買うと、今の体型に合わせると
直った時、合いませんから、右の膝をもう少し伸ばしてから
買っていただきます。」という返事。

今、不景気の中で、大型の小売店はともかくとして、
中小零細小売店は、必死・必死の時代。
そんな中で私は、この店の店員さんの態度に
実に、すがすがしいものを感じた。

一昔前ならともかく、この20年少々、平成になってからは
非常にどの小売店も苦しい。
極端な表現をすれば、ペテンに引っかけても、
売った者勝ちという時代になっている。
更に更に、値段を下げても ”売る” 事が至上命令。
客の事など、口先では色々言ってるけど、
本心は違う事かどうか、私の年令になれば分かってしまう。

この店の、この元町裏側の通りの中の
ドイツ靴店の素晴らしさを、
私は誰かに、否、みんなに話をしたい。

親の家業を継ぐのが当然みたいだった時代ではない。
親は親、そして、子は子の生き方と、
時の流れの速さに押し流されていきそうなこの時代に、
この靴屋の存在は、見事だと思った。

私も、商人。
そして、時の流れは、決して意のままにはならない。
そんな時代に、すごーくすがすがしい喜びを
私は、与えられた。





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