2009年1月17日土曜日

田山花袋の少女病

私が田山花袋の「蒲団」を読んだのはたしか17才の時だったと思う。
ある種の衝撃を受け忘れられない小説の一冊となった。

以後、この作家のものはなぜかあまり読んでいない。
そして今回「少女病」に出会い えっ と思いつつ何十年振りかでこの作家の作品を手にとった。
田山花袋は明治の初め(1871年)に生まれ昭和5年に亡くなった。
私が生まれた時にはもう居ない作家だった。
しかし、今「蒲団」を思い出してもそんなに昔の作品には感じない。
それはこの「少女病」を読んで分かった。


文庫で119頁にあるもの、三分の一は写真の頁だし、且つ一頁の文章の量も非常に少ない。
普通の文庫なら短編。
一気に終了してしまう量だけど東京山手線。代々木、千駄ヶ谷、新宿付近が未だ新開地で田んぼがあり、藁葺の家があり、柴垣、樫垣、要垣のある家がガス燈と共に出てくる風景の文章。
雑誌社に勤めている主人公の男が住んでいるのも千駄ヶ谷の田んぼを越してクヌギの並木の向こうを通って新建ちの立派な邸宅の連ねている門を抜けて牛の鳴き声の聞こえる牧場、樫の大樹の連なっている小径を・・・・・。

今の東京の山の手の景色ではない。
こういう時代にかかる「少女病」(若くて美しい女性への憧れ)と現代の東京にある「少女病」(とは云えないかも分からない)とは全く異なる。
当時の35才前後は現代なら50才~60才に匹敵するだろうか。
そういう自分の老に対する醜さへの嫌悪や敗北感に共感しそれが若く美しい女性へのピュアな心情が未だ開ききってない東京の郊外の景色と相まって詩を読んでいるような感覚の小説だと感じた。

写真が多く入っているので尚その思いが強くなる。
願わくば写真の少女が当時の衣装を纏っていたなら、もっと感動は大きかったかも分からない。
「少女病」というのは100年昔も今もある。
今は美しい対象を殺してしまう。だから余韻も何も残らず唯唯事件になってしまう。
詩にはなりようがない時代背景。


もう今では見られない東京の田園都市風景。
武蔵野の自然の未だ残る東京郊外で現代では考えられない若い女性への純粋な憧れ、人間の永遠のテーマである老に対する敗北感と対極にある若く美しい女性への憧れ。
「少女病」この小説は絵本を見ながら詩を読むような気分で読んでみてほしいなと思った。
そう考えてるうちに代表作「蒲団」のテーマもこの「少女病」も底を流れる田山花袋の感情は相通じるものがあって、ああやっぱりこの小説は田山花袋の作品だと納得出来た。





「少女病」
田山花袋/著 藤牧徹也/写真

出版社名 青山出版社
出版年月 2008年11月
税込価格 1,260円







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