僕は愛媛の美味しいみかんを入れるためのダンボールとして生まれました。
みかんは選別機にかけられて大きさ別に大・中・小・その他に分けられていきます。
僕は普通の大きさのみかんを体いっぱいに詰め込まれガムテープでピシッと止められた。
休む暇も無く僕はトラックに詰め込まれ他のダンボール仲間と共にその日のうちに出発した。
故郷にさよならをする暇もなくトラックはドンドン進んでいった
気がついたらしまなみ海道を通り、尾道へと出ていた。
トラックは東に向かって走っていた。
どこに僕は連れていかれるのだろうと考えながら外に目を向けると外には大きな海が広がっていた。
トラックは瀬戸内海を通り大阪を通り更に東へ車は進んでいった。
僕は長旅に疲れて景色を見ているうちに寝てしまった。
どのくらい寝たのだろう
気がついたらまったく知らない景色になっていた。トラックの運転手さんが「横浜がー・・」と言っているのが僕の耳に届いた。
商店街の中にあるスーパーの裏に止まった。
トラックのドアが開けられ仲間がどんどん移動してゆく。
僕の番が来た。
僕を外に出すとすぐにガムテープを剥がされ中のみかんを大きな台の上にどんどん移動させてゆく。
いきなり身が軽くなったので何か足りないような変な感じがした。
回りを見ると他のダンボール仲間が次々と折りたたまれてゆく光景が見えた。
僕の役目もここで終わりかな・・と少し淋しくなった
僕がたたまれる番になった時、男の人の声が聞こえた
「しっかりしたきれいなダンボールはまだ使えるから10個位店頭のレジの後ろに並べておけ」
お店のリーダーらしき人が僕を指してこう言った。
僕は折りたたまれずに来たままの状態他のたたまれなかった仲間と共にでお客さんが商品を袋詰めする台の横の一番下に積み上げられた。
ここは何て活気があるんだろう。
スーパーマーケットとはどうやら人が買い物をしにくるところらしい。
人が僕の前を行ったり来たり忙しそうに動いている。
僕は初めてきたスーパーの中がとても珍しかった。
僕は一番下に置かれたので他のダンボール仲間達が連れていかれるのをジッと見ているしかなかった。
上に積まれていた仲間は他の人が買った品物を入れて自転車の荷台に積まれて連れて行かれてしまった。
その時僕は気がついた。
あっそうか・・僕は荷物が多いお客さんのお手伝いをする為にここにいるのか!
みかんを運んだら役目が終わってしまうと思っていたので少し嬉しくなった。
次は僕の中に何が入るんだろう・・・
ワクワクして待っていたが僕だが一番下に積まれていたのでその日は結局順番が来なかった。
そのうちお店の明かりが消えた。どうやら閉店らしい。
僕は明日はきっと・・と思いながらスーパーで一晩過ごした。
「おはようございますっ!」という店長の声で僕は起きた。
店長の声と同時に人が次々とお店の中に入ってきた。
皆の目が必死になって商品を見ている。
人間はどうして血まなこな目で品物を選ぶんだろう・・・・
僕が運んできたみかんも皆必死に見ていた
どうやらみかんはみかんでも良いみかんと悪いみかんがあるらしい。
綺麗なみかんが次々と売られていくのが見えた。
僕にはみかんはみかん、りんごはりんごに見えるけどなぁ・・・
みかんが自分の中に入っていたことを思い出しみかん畑がある故郷が懐かしくなった。
そんな事を考えてると一人のおばさんが僕に近づいてきた。
おばさんはなぜか僕たちをジッと見ている。
他のお客さんは上から順にとって言ったのにこのおばさんは違った。
「あっ!これがいいわ」と聞こえたと思ったら僕はひっぱられた。
おばさんはいそいそと僕を自転車に乗せカルピスソーダとゴボウと魚を入れた。
おばさんは自転車には乗らず引いて歩いていった。
10分もたたないうちにおばさんは本屋の前で自転車を止めた。
僕は店の中に運ばれていった。
僕の中に入っていた品物は全部出され
「このダンボールしっかりしてていいでしょ!返品に使ってね」と僕を本屋の店員に差し出した。
「あ!これは良いダンボールですね。みかんの箱は良いですよ」と男の店員は答え終わらないうちに僕の中に本を詰めこんでいった。
みかんの次はゴボウ、ゴボウの次は本か
あっというまに僕の中は本でいっぱいになった。
そして僕はまたガムテープできっちり止められた。
上に何かガムテープとは違うラベルを貼られた。
回りを見るといろんな種類のダンボールがあった。
薬品が入っていたダンボール、本が入っていたダンボールお茶が入っていたダンボール
言うとキリが無いくらい色々なダンボールがたくさんあった。
どうやらこの本屋さんは用済みになった僕たちにまた働くキッカケを与えてくれるらしい。
男性の店員は手際よく本を入れてダンボールをどんどん積み上げてゆく。
僕を連れてきたおばさんは「ああ、疲れた」と言いながら作業場の机でグッタリしていた。
その時リリーンと電話が鳴った。
おばさんはエプロンのポケットから電話を取り出し
「ハイ、イセザキ書房でございます。毎度ありがとうございます ハイ ハイ ハイ ハイ 分かりました。早速手配します。よろしくお願いします。」とまるで若い女性のようにテンションの高い声で頭を下げニコニコしながら応対していた。
さっき、ああ疲れたと云っていたのにもう元気になっていた。
さっきとは同一人物には思えない。
その後は他のスタッフに指示を出してまた作業机の上にもたれかかりぼんやりしていた。
ああ・・やっぱり疲れていたんだな・・と僕は思った。
店頭から「社長、お客さんですよ」という声がすると又「ハーイ」とテンションをあげて店へ足を運び大きな声で笑いながら嬉しそうに「有難うございます」と繰り返し言っていた。
裏と表のテンションの違いに僕は驚きっぱなしだった。
きっとお客さんがくるとすごく嬉しいんだろうなぁ・・・と僕はおばさんの笑い声を聞きながら思った。
午後9時閉店時間になると僕たちダンボールは店先に並べられた。
僕を店先に放置して店のシャッターは閉められた。
少し時間が経った頃・・またシャッターが開いた。
自分達が運ばれてきたトラックとはまったく違うトラックが僕の目の前にあった。
トラックの中から新しいダンボールが次々と運ばれてきた。
新しくやってきたダンボールにはどうやら新品の本が入っているらしい。
僕の中にはどうやら返品される本が入っているようだ。
新しいダンボールと入れ替えに僕はトラックに積まれていった。
トラックは僕たちを積み終わると走り出した。
真夜中の道路をまた東へ・・・・今度は川崎という所で降ろされた。
僕たちはそこでまたバラバラになった。
同じ返品する本でもどうやら種類が違うらしい。
中身は全部本でも行く所は違うんだなと不思議になった。
僕も色々回されて忙しいと思うけど僕を休む間もなく運んでいる人間はもっと大変なんだなとダンボールを一生懸命運んでる人間を見て感心した。
僕は川崎からまた別のトラックに乗せられて次は埼玉県桶川という所に移動した。
四国生まれの僕には埼玉県桶川なんてどんな所か検討もつかない。
もう、ここまできたら日本の旅を楽しもうと僕は思った。
トラックは関東平野の道を走っていた。
回りは薄暗く景色は全然見えなかった。少し残念だ。
少しすると大きな建物についた。
ここで降ろされるとガムテープを剥がされた。
僕の体に入っていた本が次々と取り出されていく。
取り出された本はベルトコンベアーに置かれて夫々選別されていくようだ。
僕はその時ふとみかんもこんな風に選別されていたなー・・と思い出した。
愛媛が恋しくなった
もうみかんの畑が広がっていた故郷には戻れないんだな・・と少し悲しくなった。
そういえば途中で会ったあのテンションの高いおばさんは今頃どうしているのだろうか
あのおばさんにももう会えないんだろうな・・・
僕たちダンボールは物を運んでいるうちに痛んでゆき箱としての役目をはたした後、また一枚の紙に戻ってしまう。
短い時間だったけど愛媛県から埼玉県の桶川まで日本を半分位旅できた僕はダンボールとしてはすごいと思う。
それにたくさんの人間の役にもたてた気がして僕のダンボール人生は結構満足だ。
楽しかったと僕は思った。
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