夏の縁側で亜紀子の父はうちわを使いながら道行く人と挨拶を交わしていた。
そこへ、斜め前の家の二男、井上勇が航空兵の正装でやってきた。
「光義さん、決めたよ。明日、出征だ。今日中に親しい所だけ挨拶まわりをしておこうと思って。
光義さん、国家の一大事のこの時、第一線の戦場で敵と戦うのはほまれだと思うとる。
そう思うだろう、光義さん」
光義は娘・亜紀子の盆の上に乗せられたカキ氷を手渡されながら勇の話を聞いた。
亜紀子は小学三年生。
意味がよく分からなかった。
黙って父の横で自分のカキ氷をスプーンですくいながら聞いていた。
「だがのお、勇君よ、お前兄貴も戦場に行ってしまって便りもろくろく来ないのに、お前が又航空兵になって家を出て行ってしまったら親父やお袋の事、どうするんだ」
「いや、親父も賛成なんだ。
お袋は泣いてばかりいるけれど、仕方ない」
「勇よ、航空隊に入るのはいいけれど、絶対に生きて帰ってこいよ。捕虜になってもいいから。
生きて帰ってこなかったらお前は、大きな親不幸者だよ。」
勇は顔いっぱいの笑顔の目でこう言った。
「光義さんな、例え戦死したとしても。靖国神社に神様として祭られるんだよ。そして、日本中の人から手を合わせて拝んでもらえる。
天皇陛下にも拝んでもらえる。
普通の人間が神社に祭られることなんて、絶対無いもの。
みんなと会う度に云ってるんだ。
俺とお前は戦友だ。
同じ死ぬなら国の為。
靖国神社で逢う日まで、と」
光義は心情の優しい男で5人の子供と妻、そして老父母がある、
一番の下の息子は生まれたばかり。
横に座っている亜紀子の方に顔を向けながら
「なあ、亜紀子。死んでしまったらもう駄目だよな」
と云った。
亜紀子は
「勇兄ちゃん、死んだらいかん。神様にならんでいいから、生きて帰って来て」
と泣きながら勇の上着を握りしめた。
「亜紀ちゃん、分かった分かった。亜紀ちゃんも、もう少し大きくなったら俺の気持ちが分かるよ。日本は今大変な戦争の真っ盛りなんだ。
亜紀ちゃん元気でな。
光義さん、みんなによろしく云うといてな」
では、行ってまいりますと右手で挙手をして立ち去った。
戦争の事は四国の田舎町でも、刻々と厳しさを増していた。
隣のおばさんが、波打ち際で
「なぁ、亜紀ちゃん。私はお腹の中に子供が出来てるけど、この子を産んで幸になるんだろうか。
何か聞くところによると一億総玉砕とかお腹の子供も生んでもすぐ殺されるなら生むのは止めようかと思うんだけど)
と聞かれたけれど、亜紀子は何とも返事が出来ず、ただ世の中が暗く恐ろしい方へ向かっているのだなと身体がワナワナと震えだした。
勇の時も隣のおばさんの話の時も亜紀子は、それほど恐ろしいとも思わなかった。
海も山も昔と変わらぬこの海岸の町では。
しかし刻々と戦争の恐怖は亜紀子の身にせまっていた。
昭和17年・11月
亜紀子の父に召集令状が届き10日間位の間に父は佐世保海軍へ入隊して行った。
母の兄弟も?親類縁者も5人の子供と老父母とそして、女の手には出来ない漁業という家業を残して出征してゆく事に涙も出ない悲しみが襲ってきた。
そして2年後、フィリピンの負け戦の時、ルソン島で昭和20年6月18日に戦病死(のたれ死に)。
勇兄ちゃんは前年、名誉の戦死。
公報が届いたのは亜紀子が女学校一年生の夏の初め。
祖父は戦争が終わって光義が帰って来たら一緒に飲むといって陰膳の前に清酒を2本置いて待っていた。
終戦は20年8月15日
その前に長崎と広島の原爆投下があった。
そして3月には首都・東京は空襲でほどんど丸焼けになった。
首都がこれほどの惨状に会った時に、なぜ白旗をあげてくれなかったのかと亜紀子は悔し涙にくれた。
そして勇兄ちゃんがあれほど靖国神社を期待していたのに天皇はおろか総理大臣すら参ってはくれないではないか。
亜紀子は思った。
「勇兄ちゃんの馬鹿、今参拝してるのは遺族だけではないか。敗戦の日8月15日ですら参ってくれないではないか。
国民は幼いから、情報が乏しいから、そして純粋だから国の言いなりになってしまう。
長々と靖国の事を書いたけど今この瞬間にも似たような事が起きていると77歳になった私は思う。
一冊でなく、数多くの昭和史の本をくまなく読めば様々な過去の事は分かる。
それから推察してみると今この瞬間だって、国民は本当の事を知らないかも分からない。
国家を動かす総理になれる程の器のある人はいるんだろうか。
本当の事は報道されているのだろうか。
議員の数を減らすというのは一体いつ実行するのか。議員の才費を減らすというのもいつ行われるのですか?
少なくとも総理その他 大臣、国会議員は国民を犠牲にしない政治をやってほしい。
身銭を切ってでも国家国民のためにやるのが当然ではないでしょうか。
純粋・真っ白な人に総理になってほしい。
金だとか利益だとか疑われてるだけでも、火のない所に煙はたたない。
この日本国家を持ち上げる力、力量、そして国家を愛する国民を愛する暖かな人に総理大臣になってほしい。
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