2008年6月14日土曜日

家族って何だ?


美沙「もしもし美沙です。ねぇ、陽子、少し長電話してもいいかしら?」


陽子「いいわよ、今日は亭主は出張。明日の夕方まで帰ってこないわ。その間私は一人よ」

美沙「そう、よかった。実はねウチの亮に恋人ができたらしいのよ」

陽子「それは良かったじゃない。亮君いくつになったのかしら?」

美沙「38才よ。そろそろ身をかためてほしいんだけど何しろああの調子でしょ?研究室の虫みたいなんだもの。一人息子というのも困るわ」

陽子「38ならまだまだ大丈夫よ。今は40代の人ごろごろいるわよ」

美沙「そういえばそうだけどねぇ・・・でも何だか亮は本気らしいのよ」

陽子「どんなお相手なの?まさかウチの眞佐子のようなんじゃないだろうね?一人娘も困りものよ?私は女の子が一人でもいれば女同士の相談相手にもなると思って育てたんだけど、、まさか東大の医学部に入部してブラジルへ行ってしまうなんて夢にも思わなかったわ。せめてアメリカならまだ良かったのに。「飛行機ならすぐ帰れるわ」なんてニコニコしながらブラジルへ行ってしまったけど結局家に帰ってきたのは一度っきり。しかも「ブラジルで伴侶見つけるから」なんて云われて何の為に一生懸命子育てしてたんだろうって思っちゃったわよ。でも亮君のお相手ってどんな方かしら?どこで出会ったの?」

美沙「英会話教室で会ったらしいけど詳しくは教えてくれないのよ。でもね、「相手がどう思ってるか分からない」なんて言いながら心はウキウキしてるのが私には分かるの。主人もね「一度家に連れて来いよ」なんて云ってるけどそれはいつの事になるのかしらね・・・・」

陽子「美沙、大丈夫よ。もうすぐ実現すると思うわ。これは私の予感だけど。亮君がそんな話するという事はきっと何回かデートしてるのよ」

美沙「毎週土曜日の午後英会話教室に行くのが楽しみみたいに見えるのよね。だから私もどんな娘さんなのか会ってみたいんだけど」

陽子「その娘さん、なぜ英会話教室に通ってるのかしら?」

美沙「うん、それは云ったわ。どこかの小さな国の大使館へ勤めてるんだけどもっと英語が上手になりたいって云っていたわよ」

陽子「大使館に勤めているなら先ず大丈夫よ。早く会いたいでしょう。私も拝ませてほしいわ」

美沙「ねぇ、陽子。私がいつも夢に描いてるような娘さんだと思う?」

陽子「美沙、云っとくけどね今は私達とは時代が違うのよ?同居なんかしてくれないよ、絶対に。仮に二世帯住宅を建てたとしても入ってはくれないわよ」

美沙「ううん、そんな事は全く考えてないわよ。こっちも気兼ねしながら生きるのは嫌だからね」

陽子「じゃあ美沙の理想の娘さんの条件って何だったかしら?」

美沙「私はね、一人息子のお嫁さんはね・・・・ちゃんとした家庭の娘さんであってほしいの。そしてね、兄弟、姉妹がいてワイワイ言いながら育った娘さんでね、両親がちゃんと揃っていて出来ることならおじいちゃん、おばあちゃんが一緒に住んでいて家族に囲まれて育ったお嬢さんが理想なの」

陽子「へぇーそうだったの。知らなかったわ。もう40年以上も付き合ってたけど美沙そんな事云ったことなかったわよね。」

美沙「私は誰にも云ったことはないけど亮が小さい時はそれほど思わなかったけど亮に兄弟を作ってやりたかったの。でも出来なかったわ。亮が「お母さん僕弟が欲しいな・・・・」と言って私のお腹に顔をこすりつけて来た時はっとしたのよ。でも出来ないもの・・仕方なかったのよね。亮が大学時代に時々娘さんを連れてきたことも何度かあって私は女の子が珍しいから一生懸命ご馳走作ってもてなしたのよね。でもね「成績がいいんだよ彼女は」と亮がいう娘さんでも挨拶がきちんとできない子も何人かいたし、食事のあとも食べたらすぐ立ち上がる子、片付ける子と色々だった。あとでよく聞いてみると一人暮らしとか母一人、子一人とかいう環境の娘さんはどこか何か淋しいのよね。私の友達を見回しても陽子だって四人姉妹、おばあさんと一緒に住んでたし、大家族で育った人間は皆大らかなのよね。おじいさん、あばあさんと一緒に生活して来た娘は情があるのよね。」

陽子「美沙、分かった。あなたの言いたいことよーく分かった。その通りよ。私も娘を夫の両親と育てていたらよかったんだ。人間は日本の戦前のような大家族の方がいいんだわ。美沙、きっとその英語を習いに来てる娘さんはあなたの思い通りの娘さんよ、きっと。私はそう思う。亮君が連れてきたら会わせてね。大丈夫、きっとうまくいくと思う。美沙の祈りは神に届くと思う!」

美沙「陽子にそう言われると私も気が晴れ晴れしたわ。やっぱり陽子に聞いてもらって良かった。ありがとう。長電話に付き合わせてごめんなさいね。」








終わり



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