2012年6月9日土曜日

厳しい夫に仕込まれた私

私は、55年間、本屋一筋の人生であった。
これからも、知力・気力・体力の許す限り
この小さな書店(40坪)を続けて行くつもりだ。

半世紀以上やった中で、未だ私が20歳代の、
開店して間もない頃だったと思う、
当時、あちこちにあった洋裁学校のなかのある学校へ
教材に使うからと云って、その学校の女の先生
(当時の私よりもずっと年上)が、
1冊¥3000の本を50冊買ってくれた。
「¥150,000-の代金は、生徒から集めて揃えて
お届けします。」という約束で、
私は、50冊の洋裁の本をスクーターに乗せて届けた。
「1週間位で集金出来ると思います。」と云われたので
10日間位経った頃、電話したら、
「未だ金額に達していないので、もう少し待って下さい。」
という返事だった。
そして、1ヶ月経っても音沙汰がないので
学校へ行って、生徒さんに聞いてみると
「全員、もうみんな支払っていますよ。」
という事なので、先生にお支払いをお願いしたら
「一寸待って下さい。」
という言葉のまま更に1ヶ月経っても支払いがない。

納品してから、3ヶ月以上経った頃、
夫が「これはおかしい。簡易裁判所へ提訴しよう。」
と云った。そして、私にその手続きの方法を
裁判所へ行って聞いて来いと、命じた。

夫は、中央大学の法学部卒のバリバリの法律屋なのに
知識のない私がなぜ?と思い、夫に聞いた。
「貴方は専門家。私のように知識も経験もない者が
法廷に出たら負けるかも分からない。」と私は云った。

すると、明日出廷という前夜、
「一寸来い。俺が今から云うからメモして頭に入れろ。」
という前段階があって、
1、 こう云われたら、こう返事をしろ。
2、 こう云われたら、返事をせずに黙っていろ。
3、 又、こういう質問が来たら、こう答えろ。
以下、15項目位を私にメモをとらせて
「それで、大きい声でしっかりと答えるように。」 

私は、胸がドキドキしてきた。
上手く答えられるだろうか?
20歳代後半の若い未経験の女に出来るだろうか?
とても とても 心配だった。
しかし、当たって砕けろだ!やってみよう!
と自分に云い聞かせ、決められた時間に法廷に出た。

左に判事?向う側に洋裁学校の先生。そして、相対して私。
私は、その頃には、もう度胸が据わって来た。
具体的な言葉は、ほとんど忘れたが、
私は、必死で大きくゆっくりとした声で全部答えた。
最後に判事の方から、
「この法廷にかかった費用は、どちらが持ちますか?
折半ですか?」と云われたので、私はすぐに立ち上がった。
「問題を作ったのはそちらです。
勿論、費用はそちら側で全額負担すべきです!」
と私は、これは主人のメモの中には含まれていなかったが
はっきりと答えた。
「分かりました。それでは、○○洋裁学校は、
品代金と費用を支払って下さい。」

これで終わり、無事代金は返って来た。
さて、帰宅の準備をして法廷を出て来たら
「君は、なかなか声は通るし、意味も明瞭だし、よく出来た。」
という夫の声がする。
見れば、夫は傍聴席で一部始終、全部見ていたらしい。

私の夫は、手も早いし、口論は絶対に負ける。

私の父親は、(昭和20年6月、フィリピンのルソン島で野たれ死に)
召集兵だったのに戦病死とされ、白木の箱の中には、
『○○○○の霊』と書いた紙切れが一枚、入っていただけ。

5人の私達妹弟が無事育ったのはひとえに、祖父母のおかげだった 。
その祖父が亡くなった時も、
初孫で可愛がってもらった祖母が亡くなった時も、
「お葬式に行かなくてよい、行くな。」
という事で、私は参列出来なかった。

年をとる毎に、祖父・祖母の事 が思い出されて
何度、私は離婚しようかと思ったか分からない。
しかし、なぜか理由ははっきりと分からないが、
私は、36年間頑張った。
夫亡き後、私は、夫の意志 として、商売の道を歩み続けた。


そして今回、ある船食会社が、船から預かってきた代金を
当方へ送金せず、もう4カ月目に入った。
相手の住所が名古屋なので、私は、準備をして
名古屋の裁判所へ控訴しようと考えた。
実行に移る直前、船会社が間に立って入って下さって、
代替払を親切にやっていただけたので、
私は、名古屋へ行かずに済んだが。

今回、厳しかった夫に従って来たのは、
私を伸ばすためだったんだと、はっきり自覚した。
夫もそのつもりだったのだろう。
愛情の示し方が変わっているし不器用なので
私は、非常に苦しんだ。
しかし、今、亡き夫のお仏壇の前に座って、
お線香のたちのぼる煙を眺めながら、
「貴方、ありがとう。これからも助けて下さい。」
と祈った。

でも、事はこれだけではない。
これは、ほんの一例。 






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