2008年11月1日土曜日

本を読もう

私はテレビのインタビューを観て信じられなかった。東京の街の真中で15~20才位の男女にこう聞いている。「あなたが一番最近読んだ本は何ですか?」それに対して「最近と云われても分からない」と答える。更にアナウンサーは「それでは最後に読んだ本は何ですか?」と問いかけた。
すると今度は
「中学生の時に読んだのが最後かな」
「最後に読んだ本なんか忘れた。」
「学校卒業してから本なんか買ったこともないし読んだこともない」
「本ではないけど雑誌なら時々面白そうなものがあると本屋さんで立ち読みする位かな」
こんな答えばかりではなかったと私は思う。もっと他の答えもあったはずだと思う。でも、こうしたテレビがNHKで報じられたという事は現実であり多分アナウンサーも驚いたと思う。

私は書店人50年生だから人生の大部分本と生きて来た。思い出すのは高校二年生の夏休みに国語の教師から宿題が出た。「この夏休みに何でもよいから本を読んでそれを積み重ねて何センチになったか。そして読んだ本の感想文を簡単に書き加えて提出しなさい。先生の目標は50センチだ」と。今のように本の沢山ある時代では無かったのであちこちに借りたりしながら、それでも私は50センチには達しなかった。本が無かった時代だったから。でもこの時が無かったら私はハムレット、若きウェルテムの悩み、にごりえ、たけくらべ、白秋詩集、一握の砂、出家とその弟子、みだれ髪、夜明け前、千曲川のスケッチ、破戒等は読んでなかったかも分からない。

さて本論に戻って、私は本屋だから本離れ・本が売れなくなったという言葉を毎日聞かされ読まされている。事実私の店も元気が無くなったなと思うことが度々ある。それでも今の10代~20代の人たちがこれ程本から離れているとは予想外だった。どうすればよいのか。すぐに答えは出ないけど成人式の頃から40代半までが一番本を読む条件が揃っていると思う。その頃読んだ本は忘れない。20代に読んだ本を40年以上経って読んでみると新しい本とは違った懐かしさが感情に加味されて又違った意味の興味がわいてくる。不思議なものだ。



一つだけ例をあげると松本清張という40年位前の超売れっ子作家があった。今も勿論売れている。推理小説というより社会事件小説と云うべきか。犯罪があって、犯人は始めから分かっている。その犯人がどのような理由でいかにして犯罪を起こしてしてゆくかの過程が物語になっている。犯人探しの推理小説とは一味違った面白さを持っていたので非常によく売れた。私はこの作家の短編集がより好きで好んで読んだ。その中に有名な小説「張り込み」というのがあるが警察の動き方、犯人の心境、男女の愛の一つの形。これも40年前だなと思う姿である。その物語の中に九州方面の田舎の景色が描かれている。今ならもうないような里山の風景。更に新幹線も東海道だけだし、携帯もなければネットもない社会。通信は電報と通常の電話と手紙のみの時代。今からでは想像も出来ないような不便な時代だけどその世界に生きる人間は皆イキイキとしている。私はこれを読み通しながら最初に読んだ時の自分の年齢や環境を思い出した。これはほんの分かり易いごく一例だけど本を読んでいると想像力、対応力、生きる知恵が知らず知らずのうちに養われている。

※冒頭に書いた若い人達は本を読む喜び、楽しさを知らずに一生終るかも分からない。NHKがこれから毎日10分づつ本を読む喜びを100人の人に伝えてもらうそうだからテレビを見て本を読むという事を覚えてほしいと思います。これは本屋という商売抜きの人生の後輩に贈る言葉として書きました。※






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